別冊春号 2022のシェヘラザードたち
第7夜 すべてに先立つ,針の一刺し—痛くない注射のコツ
中野 裕子
1
1福島県立医科大学附属病院 麻酔・疼痛緩和科
pp.43-47
発行日 2022年4月15日
Published Date 2022/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3104200262
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採血や静脈路の確保をはじめ,脊髄くも膜下麻酔,硬膜外麻酔,伝達麻酔など,覚醒している患者に対して皮膚穿刺を行う機会は多い。われわれが日々行う麻酔という医療行為では皮膚の穿刺を避けてはとおれない。みなさんは,これらの手技のため皮膚穿刺を行った直後に患者が迷走神経反射を起こして失神したという経験はあるだろうか。私には,ある。しかし残念ながら,それを目撃することはできなかった。なぜなら,失神した患者は,私自身だったからである。
「痛み止めの注射が痛いから嫌です。」逆説的だが,真実である。歯科受診の前にこっそり歯肉にキシロカインゼリーを塗布したり,予防接種の前にエムラクリームを浸潤させたりする同僚の姿をしばしば目撃することからも,皮膚穿刺が痛みと恐怖を伴うことは明らかである。同時に,これらの行為が示すことは,穿刺前に皮膚表面に局所麻酔薬を浸潤させることが,薬理学的には痛みを軽減させる唯一の手段である,ということである。
しかし,スピード感も重要な麻酔業務や日常の診療の中で,全例で局所浸潤麻酔を行ってから皮膚穿刺を行うことは現実的ではない。薬物を使用せずに皮膚穿刺の痛みを軽減することは可能だろうか。
今夜は,注射が大嫌いな私が「痛くない注射をする」と認定した名医たちから聞き出した注射のコツを紹介し,その極意を分析してみたい。
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