- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
“Mr. A, wake up! Open your eyes!”,“Mr. A, show me two fingers! Move your right leg!”
米国のICUでは毎朝,鎮静が中止され,あちこちの部屋から上記のような声が聞こえていた。特にneuro ICUでは,重症脳梗塞,脳出血,くも膜下出血,頭部外傷,重症髄膜炎,痙攣重積発作など,高度の意識障害(覚醒障害)患者が入院しており,頻回に意識状態の確認,神経学的所見が取られている。内科ICUでも脳疾患だけでなく,薬物中毒や代謝性脳症(toxic-metabolic coma),敗血症性脳症などにより意識障害が生じていたり,意識障害がなくても,挿管・人工呼吸管理のため鎮静・鎮痛されており,1日1回鎮静が中止され,神経学的所見をはじめとした診察が行われる。
心音や呼吸音を聴診するのと違い,一般的には神経学的所見,例えば筋力や眼球運動などの脳神経所見を取る場合は患者の協力を要することが多い。意識レベルが低下して患者協力が適切に得られない場合の神経学的所見の取り方は,意識が清明で協力の得られる患者とは方法が少し異なるものになる。さらに,意識障害があるということで評価に緊急を要する場合も多く,そのうえICUでは忙しく,あまり神経学的所見のみに長時間さけないこともあり,短時間でフォーカスを絞ったものにしなければならない。
また,神経系以外の疾患でICUに入室していても,脳の器質的疾患の合併,意識障害の合併が起き,神経学的所見を取る必要に迫られることはしばしば経験することである。例えば,高齢者で動脈硬化が高度の患者が敗血症性ショックで入院し,循環動態が悪いことで脳梗塞も合併した,感染性心内膜炎で入院したが疣贅による脳梗塞を合併した,腎不全で尿毒症による意識障害を合併した,等々である。
それらの経験を通じて,神経学的所見を取ることの必要性と重要性を痛感した。そこで,ICUにおける意識障害患者の診察法をテーマに取り上げ,今回(パート1)と次回(パート2)の2回に分けて,神経学的所見の取り方を中心に概説する。また,その原因が脳の器質的疾患によるものか,中毒性・代謝性のものかの鑑別法についても解説する。
Copyright © 2010, MEDICAL SCIENCES INTERNATIONAL, LTD. All rights reserved.