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発見の日
1844年12月10日,寒く,雨模様の夜であった。コネティカット州の州都ハートフォードのユニオン・ホールで開催されたエキシビションを歯科医であるホラス・ウェルズ(Horace Wells)は妻と見に行った。入場料は一人25セント。午後7時30分,最初に興行主のコルトン(Gardner Q Colton)の笑気についての講演がはじまった。その後,聴衆に声を掛け,希望者にそのガスを吸わせた。最初に,知り合いの薬屋の丁稚クーリー(Samuel A Cooley)が吸った。彼は興奮して,走りはじめ,机の脚に足をぶつけた。向こうずねから出血していたが,痛がっている様子がなかった。ウェルズは隣に座ったクーリーに,「痛くないのか」としつこく聞いたが,「全然痛くないョ」との返事。エキシビションが終わり,片付けをしていたコルトンに「抜歯のときに,このガスを吸わせたら痛くないのではないか」と質問したが,「経験がない」との返事であった。妻を家に帰し,ウェルズは歯科の教え子で近くに開業していたリッグス(John M Riggs)のクリニックに押しかけ,いろいろ話した。
12月11日,雪が2インチも積もった朝であった。コルトンに亜酸化窒素を持参してもらい,ウェルズのクリニックでリッグスに以前から痛かった智歯を抜いてもらうことにした。どこで嗅ぎ付けたか,例のクーリーと何人かの若者も見に来た。まず,ウェルズがガスを吸った。ウェルズは意識を失った。意識を取り戻したときの,「早く抜いて」との声に,リッグスは床に落ちていた歯を指さした。ウェルズは興奮し,「ピリッともしなかった。痛みなしで抜歯ができる。新しい時代の始まりだ」と叫んだ。教え子を含め知り合いの歯科医にその方法を教え,広めようとした。教え子のなかにウィリアム・モートン(William TG Morton)もいた。
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