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電子顕微鏡の発達は,筋細胞の構造に関する我々の考え方に飛躍的な発展をもたらした。その一つは小胞体(endoplasmic reticulum又はsarcoplasmic reticulum)に関するものである。Bennett8)らは慧眼にも,この機構が,筋細胞における電気的現象を収縮に結びつける場であろうと予想した。これが,A. F. Huxley9)10)の有名な実験によつて,有力な傍証を得たことは,我々の記憶に新しいことである。
1955年,多くの生化学者の予想を裏切つて,弛緩因子(March因子)が,筋抽出液中の遠沈可能成分であるKielley-Meyerhofのミクロソーム性ATPase11)と同一(少くとも不可分)であることが示されたことは11)〜13),本問題に新しい局面をもたらし,多くの研究者をこの領域に誘い入れる契機となつた。そのミクロソーム性からしてある程度予想されたことではあるが,弛緩因子が電子顕微鏡的に小胞体に由来することが確認された2)3)15)〜17)ことは(第1図),ATPの存在下に弛緩因子がCaを強く結合する性質のあること2)3)16)18)19),更にこれに対応してアクトミオシン系の超沈澱=収縮におけるCaの特異な役割が明らかにされたことは2)3)18)〜20),弛緩因子の問題を,そのまま,興奮収縮連関の細胞下レベルないし分子レベルの研究に転化することとなつたわけである。この様な背景のもとに我々は次の様な筋の興奮収縮連関の機構を想定した2)〜7)19)。
筋の静止時,細胞内Caの大部分は,小胞体,恐らくはその内面(筋原線維と向い合つた面)に結合されている。膜の興奮に伴い,その電気的影響が小胞体の一部を通じて内部に伝えられると,小胞体のCa結合能が失われ,Caは主として拡散により筋原線維内部に移動し,収縮蛋白の収縮をもたらす。再分極とともに,小胞体のCa結合能が回復し,Caは再び拡散により小胞体に結合し,弛緩がもたらされる(第2図)。
以下この考え方の基礎となつている事実について説明を加えるとともに,今後の問題点を明かにしてゆきたいと考える。
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