解説
高分解能の走査型電子顕微鏡—Crewe教授たちの研究
高良 和武
1
Kazutake Kohra
1
1東京大学工学部物理工学教室
1Department of Applied Physics, Faculty of Engineering, University of Tokyo
pp.20-28
発行日 1972年2月15日
Published Date 1972/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425902913
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Ⅰ.はじめに
走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope,略してSEM)が商品化されてからまだ6〜7年にしかならないが,各方面への普及の速さはまことに目ざましい。金属や半導体,高分子や繊維,さらに生物などの複雑な構造を立体的に再現した写真には,従来のレンズ結像型の電子顕微鏡では到底見られないような迫真性がある。しかし,分解能はふつう100Åどまりで,従来の電子顕微鏡(EM)の1〜2Åには遠く及ばない。シカゴ大学のCrewe教授は,電子銃にフィールド・エミッションを利用すれば,高分解能のSEMが得られることを数年前に指摘したが1),彼のグループはその実現に努力を集中して,1970年にはその分解能は5Å以下となり,有機分子中のウラニウムあるいはトリウムの一個一個の原子を見ることに成功した2)。1971年には分解能は3Å前後になり,DNAの二重らせんや,そのほどけた状態などを観察するとともに,それらの分子量(単位体積あたりの質量)に関する情報も得られることを示した3)。数年前には半信半疑で迎えられたCreweの提案は,いまや疑いのない形で実現され,これらの発展には深い関心が,広い分野からよせられている。CreweのSEMでは,高分解能を実現するために,像の検出には2次電子は用いられず,透過電子が用いられている**。
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