巻頭言
人まねをしないということ
藤井 隆
1
1静岡大学理学部
pp.1
発行日 1972年2月15日
Published Date 1972/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425902911
- 有料閲覧
- 文献概要
この頃,東大を停年退官された物理学のある教授から,退官に際して,35年以上にわたるご自身の研究生活の思い出を淡々と話された記録を頂戴した。物理教室を卒業して,藤原咲平先生の助手になつた。同先生は大人(たいじん)であつて,何をやれというようなことは言われない。そこで,「先生は渦お好きでしたので,まあウズでもやるかというわけで,ガラス張りの大きな水槽を買い,底の穴から水を流すときできる渦を動的に分析してやろうと,実験を始めた。」そのうちに,別の先生が太陽の紅焔やコロナの研究を富士山頂でやるのを手伝えといわれるので,富士山の上に3週間ほども滞在したが,何の成果もなしに下山し,「地上に戻りましては,また水槽の底を抜いておりました。」というのが研究生活のお話のはじまりである。それから,菊池先生や西川先生の指導で,物理的な問題を自由に研究したが,たとえば,西川先生からも直接学問的にこまごましたことの指導を受けた覚えはなく,「むしろ,先生の研究に対する愛,あるいは厳正な態度,こういう点に非常に得るものが大きかつた。」とある。そして,それからの専門的な記述があり,お話のむすびは,自分のやつてきたことは,物理学の中でも狭い範囲のものであるから,物理学としてどれだけのことといえるか疑問だ,しかし,多くの方の協力のおかげであるが,「私は比較的愉快に研究をやつてきたようであり,また,あまり人まねをせずにやつてこれたのではないかと思つております。」となつている。
Copyright © 1972, THE ICHIRO KANEHARA FOUNDATION. All rights reserved.