巻頭言
基礎医学と臨床科学
鈴木 泰三
1
1東北大学
pp.205
発行日 1968年10月15日
Published Date 1968/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425902781
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最近,研修制度をめぐる嵐が医学のなかを吹きまくり,医学教育の焦点が研修制度にのみ向けられているように思われがちであるが,基礎医学の間には,今後の基礎医学の体系はどうあるべきか,あるいは基礎医学の教育をどう改めていくべきか,という静かではあるが着実な試みが検討されつつあることを見逃すべきではない。
いつの時代にも,臨床の立場からは基礎医学が臨床に役立つことを期待するという声がきかれる。ことに最近の傾向として基礎医学は,医学から離れて,次第に生物学自体に近づく傾向があるという批判もある。しかし,これは基礎医学の側からみると,たいした問題ではない。医学に限らず,科学では一般に,より素な,より基本的なものへと進む流れがあり,基礎医学も次第に細胞のレベルから分子のレベルへと進展するのも当然である。また,医学は周辺の科学の進歩を自らのなかに旺盛にとり入れていく力をもつているので,たとえば工学の進歩をとり入れていくと,医用電子学のみならず,医用工学,診断工学,情報医学,診断論理学などのような分野も生まれてくるはずである。このような自然の勢いを抑制する方がかえつて不自然であり,基礎医学は従来よりも広い意味で医学の基礎学ということになつていくであろう。
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