文献案内・11
甲状腺生理の研究をするにあたつてどんな本を読んだらよいか
山本 清
1
1群馬大学内分泌研究所
pp.48-51
発行日 1967年2月15日
Published Date 1967/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425902716
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本を読むということについて
研究をはじめるに当つて,"適当に"本を読むことが必要なことはいうまでもない。しかし,従来から生理学者のうちに,"頭でよむ前に手ではたらけ"という意見をもつた人が意外に多い。この意見は,本を多く読んでいろいろなことを知つている人が,存外研究の方ではのびない"もの識り"に終つている例が少なくないことから考えて,一面の真実を示しているといえる。筆者の友人の一人に,もつぱら物を読んで,理論を組み立てることに興味をもつていた研究者があつたが,後に実験室での仕事にとりつくようになつてから言つた言葉は,"先ず実験し,しかる後考えて読むのが順序で,手を使つて実験をして見なければ生物学はわからない"というのであつた。実際に研究者はある実験を組み立て,その実験から一定の結果を予想しているのであるが,出てきた結果は必ずしも予想とは一致しない。むしろ意外の結果を得ることが少なくなく,そして意外な結果にみちびかれて新しい発見に至ることがしばしばあるのである。こうして,頭で考えたことがいかに空疎なものであるかということを実験から教えられることが多い。本をよむならば,実験に利用する目的をしつかりつかんで冷静によむべきで,本を読むことそのものが目的になり,読むことに興味をもちすぎてそれに没入することがないようにしなければならない。
一般に,本を読んでは研究し,研究の過程で必要な本を読むというのが研究者の当然のゆき方であろう。
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