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カルコゲンと呼ばれる第16族元素は,酸素(O),硫黄(S),セレン(Se),テルル(Te),ポロニウム(Po),リバモリウム(Lv)から構成される。これらのうち,硫黄,セレンおよびテルルは,比較的似ている物理化学的性質を有している。硫黄は完全な典型元素であるが,セレンは典型元素でありながらも遷移金属としての性質もわずかに持ち合わせており,テルルに至っては典型元素と遷移金属の物理化学的性質を併有しており,類金属や半金属とも呼ばれる。典型元素と遷移金属の物理的および化学的性質を併有することにより,セレンやテルルは産業的にも有用性が高い元素であるが,生物学的にもユニークな作用を有している。
一方,生体内で同族の硫黄に比べて,セレンはおよそ10,000分の1程度しか存在していない。また,テルルは必須元素ではないために,特段の曝露がなければ,理論的には生体内に存在していないことになる。生体に微量しか存在しない元素の生物学的作用を理解するためには,生体微量元素が生体内でどのような化学形態で存在し,機能するのか,あるいは生体成分と相互作用を発揮するのかという定性性と定量性を同時に把握することが必要である。そこで,この目的に用いられるのがスペシエーション(speciation)と呼ばれる化学形態分析である。実際のスペシエーションでは,分離の手段としてもっぱら高速液体クロマトグラフィー(high performance liquid chromatography;HPLC)が用いられ,元素特異的な検出の手段として誘導結合プラズマ質量分析法(inductively coupled plasma mass spectrometry;ICP-MS)が用いられることが多い1-3)。図1にこのLC-ICP-MSの概念図を示した。筆者らの研究グループでは,このLC-ICP-MSを基盤技術として用いて,カルコゲンの代謝機構の解明を行っている。本稿では,硫黄,セレンおよびテルルに対する代謝機構において,これらが生物にどのように識別されているのか,あるいはされていないのかを紹介したい。
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