- 有料閲覧
- 文献概要
- 参考文献
■メモリーアロケーション(Memory Allocation)
記憶の形成過程には,獲得,固定化,想起,再固定化,消去などの複数の段階があり,その分子,細胞機構に関してこれまで盛んに研究が行われ多くの重要な発見がなされてきた。また,最近では記憶が学習時に活性化した脳内の特定のセルアセンブリ(神経細胞集団)に蓄積されることが実験的に証明されつつある。その一方で,これらの神経細胞集団が学習時にどのように選択されるのか? という機構に関しては,あまり研究が進んでこなかった。この記憶形成の初期段階における細胞の選択過程は“メモリーアロケーション”と呼ばれ,近年,研究が盛んに行われている1)。
われわれは日々の生活の中で比較的短期間に起こった出来事を関連して覚えていることをよく経験する。例えば友人と遊園地に行き,帰りにベイエリアのホテルで夕食をとった,ある暑い夏の日の一連の出来事は関連付けられて記憶されているであろう。そして,何かのきっかけで遊園地での出来事を思い出したとき,夕食の美味しさや,楽しい会話の内容なども数珠繋ぎ的に思い起こすであろう。おそらくこのとき,脳では二つの異なる記憶が,ある程度,重なり合った細胞集団に保存されたと考えられる。そして,この記憶の統合は記憶B(夕食)が,少し前に形成された記憶A(遊園地)を保持する神経細胞集団に優先的にアロケート(allocate;割り当て)した結果と考えられる(図A)。一方で,時間的にとても離れた記憶C(例えば,正月に行った温泉旅行の思い出)はA,B記憶とは異なる細胞集団に保持され,AB記憶の想起の際にC記憶を同時に思い出す可能性は低いであろう。このようにメモリーアロケーションは記憶の神経細胞集団レベルでの統合に必要な機構であると考えられている。ここでは近年,注目を集めているメモリーアロケーションに関する研究動向を紹介する。
Copyright © 2014, THE ICHIRO KANEHARA FOUNDATION. All rights reserved.