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神経軸索突起は脳発生期に著明に伸張し,樹状突起の適切な位置にシナプスを形成する。さらに成体脳が形づくられた後も,神経突起末端では外部からの刺激によってシナプス形成が続き,学習・記憶といった脳の生理機能が維持される。こうした脳発生分化・機能維持の過程は精緻に制御されており,多彩な細胞外因子の情報が受容体から入力し,細胞内シグナル伝達を介して特定の機能ユニットに正確に伝えられている。これらの制御過程を分子レベルで見ると,細胞膜表面レセプター,細胞内のシグナル伝達分子,エフェクター分子が,適切な位置に整列して有機的に結びついていることが,神経ネットワークの機能に重要であることがわかる。最近の研究で,複数種類の分子と同時に結合する能力を持ち,結合した分子を機能的に結びつけるいわゆる,アダプタータンパクが多く同定された。IRSp53は,こうしたアダプタータンパクのひとつである。
IRSp53は最初げっ歯類でインスリン-IGFⅠ受容体型チロシンリン酸化酵素によってリン酸化される53kDaのタンパクとしてクローニングされ,insulin receptor substrate of 53kDa protein,IRSp53と名付けられた1)。しかし,タンパク一次構造から推定される機能ドメインが既知のIRS1-4とは全く異なっていることから,このタンパクはインスリン-IGFⅠ受容体下流で特異なシグナル伝達系に関与する可能性が示唆されていた。その後このタンパクは,アクチン再構成に関与するRhoファミリーGタンパクとそのエフェクターと複合体を形成することがわかり,細胞の極性形成・維持に関与するシグナル伝達にかかわっていることが明らかとなった2-4)。さらにIRSp53は脳変性疾患であるポリグルタミン病のひとつ,DRPLAの責任遺伝子産物とも結合する5)。ポリグルタミン病の責任遺伝子産物はどれも広く組織に発現するにも拘わらず,病変は特異的な神経領域で起こる。IRSp53の選択的組織分布がこの組織特異的神経細胞死の病態に関与していると推定される6)。さらにIRSp53とプルキンエ細胞に特異的なアクチン結合タンパクespinとの結合,シナプス後肥厚部に存在するshank1やMALSとの結合が報告され,このタンパクが脳内で多彩な結合能を持つことが明らかになっている7-9)。本稿ではまずIRSp53の遺伝子構造とタンパクドメインについて述べ,次に脳での発現や機能を中心に,現在までの知見をまとめて紹介する。
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