特集 生命科学のNew Key Word
10.脳の働くメカニズムとその研究方法
音楽の脳領野
緑川 晶
1,2
,
河村 満
1
Akira Midorikawa
1,2
,
Mitsuru Kawamura
1
1昭和大学神経内科
2国立精神・神経センター神経研究所
pp.502-503
発行日 2004年10月15日
Published Date 2004/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425100624
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1861年にBrocaが左半球と言語機能との関わりに言及し,そこに心的機能と脳領野との関係を科学的に築く作業の起源を見出すことができる。音楽機能に関しても19世紀の後半には既に関心がもたれ,言語機能と対比がなされるようになっていた1,2)。このように音楽は人間に固有の機能として古くから言語と対比されることが多かったが,言語機能以上にその個人差が大きいことから,今日でも音楽機能に関する領野を言及することは難しく,機能的な側面からは複数のモジュールの存在が示唆されているものの3),個々のモジュールの神経基盤に関しては明らかになっていない部分が大きい。そのため本稿では音楽機能の側性化(左右半球機能差)について述べることにする。
音楽の領野として比較的一致した見解が得られているものは,演奏や歌唱などの音楽の表出面と右半球との関わりである。左半球病変によって失語症となった患者の多くで歌唱能力が保たれていたり4),同じく左半球病変によって全失語であるにもかかわらず指揮やピアノ演奏が可能である例が報告されている5)。反対に右半球病変例で演奏や歌唱が障害されることも報告されていることから6),音楽の表出には右半球が大きく関わっているようである。しかし同じ表出であっても楽譜による表出に関しては左半球の関わりも無視できない。左半球病変によって失語となり,文字の読み書きも大きく制限されていても交響曲を作曲した症例が報告されてはいるが7),左半球の限局性病変によって失語を伴わずに楽譜の表記にのみ障害される症例もあり8),楽譜への表出に関しては病巣との対応は難しいようである。
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