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現在,脳科学に求められている先端技術というと,in vivoでかつリアルタイムで神経細胞やグリア細胞,さらに神経回路や脳領域の活動性を測定できる技術がまず思い浮かぶ。電子顕微鏡を使った方法は,生体の現象を生きたまま見ることが原理的に困難であることから,上記のような技術に比べやや取り残されている感がある。しかし,電子顕微鏡はその解像度においてほかのどの方法よりも優れており,リアルタイムイメージングを使って得られる情報に構造的基盤を与えるものとして,また個々の分子構造と生体内での多くの分子の構成を知るために,その重要性は以前にも増していると考えられる。電子顕微鏡レベルで組織内の特定分子の分布を明らかにする免疫電子顕微鏡法はそのような技術の一つである。
ここで紹介する凍結割断レプリカ免疫電子顕微鏡法(SDS-digested Freeze-fracture Replica Labeling,SDS-FRL法)は,その中でも新しい方法であり,世界でもまだ数えるほどの研究者にしか使われていないが,その潜在的有用性が多くの研究者に知られるにつれて普及が進むと考えられる。この方法はいわば電子顕微鏡レベルのhistoblot法であり,レプリカ面に固相化された抗原の変性と固相化されなかった分子の除去をSDS処理により行い,レプリカ面に残った抗原に対して抗原抗体反応をイムノブロット法に近い条件のもとに行うことができる。その結果,組織内に埋もれた抗原に対して抗体反応を行う従来の免疫電子顕微鏡法に比べて,高感度,高定量性であることが最も大きな利点であると考えられる。そのほかにも,細胞膜上の受容体やチャネル分子の分布を細胞内にある分子と区別して二次元的に捉えられること,イムノブロット法に適用可能な多くの抗体を使うことができること,短時間で結果が得られること,数多くの分子の細胞膜上での共存を二次元的に調べることができること,膜蛋白のトポロジーを決めることができること,などが利点として挙げられる。その反面,電子顕微鏡下で観察される個々のレプリカ面がどのような細胞のどの部分からなるのかを同定することが容易でないという大きな欠点がある。一般の電子顕微鏡法にもいえることであるが,高倍率で観察することが可能でも,光学顕微鏡による低倍率で観察される像の中でのオリエンテーションがつかなければ,何を見ているのかわからないことになる。脳のような複雑な組織ではなおさらである。
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