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視覚情報を得るためには光を感受して電気信号に変え,脳に伝達する必要がある。その入り口としての役割を果たしているのが網膜である。網膜は眼球の後方に位置する層構造を成す組織で,6種のニューロンと1種のグリア細胞からなる。このうち光を感受して神経情報に変換するのが網膜視細胞であり,大別すると桿体視細胞(桿体)と錐体視細胞(錐体)の2種類がある。桿体と錐体は異なる形態をもち,光を光色素によって受容する。この光色素は,オプシンと呼ばれるタンパク質に発色団として11-cis-retinalを共有結合している。視細胞の種類によって発現しているオプシンが異なるので,受容できる光の波長も異なる。それゆえ桿体は弱い光を受容するが色を識別できない。錐体は強い光を受容して色を識別できる。暗所では色を識別できないが形を識別できるのはこの所以である。従ってどのサブタイプの視細胞に分化するかは,正常な視覚を得る上で非常に重要である。
マウスでは桿体はロドプシンを,錐体はS-オプシンもしくはM-オプシンを光色素として発現している。桿体前駆細胞は胎児期13日目から生後10日目にかけて誕生し,錐体前駆細胞は胎児期12.5日目から17.5日目の間に誕生する。しかしこれら視細胞前駆細胞の誕生と,オプシンタンパク質の発現開始の間には明確な遅れがある。ロドプシンは桿体前駆細胞の最終分裂から約5.5~6.5日も経過しないと発現しない1)。またS-オプシンは生後5日目から発現され始め,10日目でピークをむかえる。その後のS-オプシン陽性細胞は一部が減少してM-オプシンを発現する細胞に変化すると考えられている2)。以上のことから,視細胞のサブタイプへの最終分化は視細胞特異的な遺伝子群の発現転換が関わると考えられている。本稿では,桿体と錐体への分化に関与する遺伝子の発現調節機構とDNA結合ドメインの役割について解説する。
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