Japanese
English
特集 意識―脳科学からのアプローチ
今なぜ「意識」なのか
Why“consciousness”now ?
伊藤 正男
1
Masao Ito
1
1理化学研究所脳科学総合研究センター
pp.2-3
発行日 2007年2月15日
Published Date 2007/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425100001
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脳の研究は最近の10年間に長足の進歩を遂げた。10年前にはまだ遥かかなたと思われた目標の多くが,今はひどく眼前に迫ってきた感がある。もちろん,脳はいまだに謎に満ちているが,全部がわからないというのではない。わかる範囲が広がるとともに,容易にはわかりそうにない部分との境界がだんだんはっきりしてきたというところであろうか。Chalmers1)のいう,「やさしい問題」と「むずかしい問題」の区別がはっきりしてきた,あるいは科学的な手法で接近できることと,到底できそうにないことが乖離してきた。その接近ができそうにないことの頂点に意識,自意識の問題がある。
16年前CrickとKoch2)は,「少し前だったら,教室で意識の話をすれば,学生はそっぽを向いて窓の外を見ただろうが,今は少し様子が違ってきた」と書いている。脳の研究者も,意識は手にあまる問題として避ける傾向が強かった。10年前,「脳科学の時代」の研究プロジェクトが発足した時,われわれは20年を目処にして,「やさしい問題」を徹底的に攻略すれば,総堀を埋められた大阪城のように,むずかしい問題のごく間近に到達し,「意識」を間近に包囲できるのではないかと期待した。その中間地点に到達した今日,脳の仕組みに対するわれわれの理解は大いに深まったが,「意識」には果してどこまで迫ることができたであろうか。
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