連載 下実上虚・9
ひとりでおむつ交換をしていると虐待しそうになる。
西川 勝
1
Masaru Nishikawa
1
1大阪大学コミュニケーションデザイン・センター
pp.98-99
発行日 2005年11月1日
Published Date 2005/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689100167
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- 文献概要
ある看護師のため息
ひとりでおむつ交換をしていると虐待しそうになる。
患者さんの枯れた腕を押さえつけ、おもわず叩いてしまいそうな自分がいる。こんな感情を隠しもちながら働いているのは自分だけだと思うと、人にも話せない……。
自分のなかに一匹の悪魔も生かしていない人は、ずいぶん心の狭い人だろう。世のなかにはありとあらゆる悪魔がいるのに、自分だけ無関係に生きようなんて勝手がすぎるというもんだ。自分ひとりでいるとき、ぼくはほとんど悪党だ。で、自分以外の人だってそうだろうと思っている。だから、ひとりで看護っていうのはするべきじゃないと考えている。もの言わぬ弱い患者と2人っきりにされたナースは、自分のなかの悪魔を手なずけることから始めなければいけない。
夜勤で何十人ものおむつ交換をするとき、職員2人が組んで一緒にやるのと、別々におむつ交換に回るのと、どちらのやり方が手早いか。2人のほうが効率がよいはずなのに、そうはならない。同僚、先輩、後輩の前では見せられない手抜きをひとりならやれるから、組まないやり方のほうが早いのだ。初心者よりもベテランになるほどこの傾向は強い。これは、ぼくの長年の経験が証明している。
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