連載 ほんとの出会い・12
上海が救ったユダヤ人の命
岡田 真紀
pp.217
発行日 2007年3月15日
Published Date 2007/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688100408
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- 文献概要
80歳になる私の母は上海生まれである。母の父,つまり私の祖父が中国との貿易を行なっていたので,魯迅も出入りした内山書店近くに家をもっていたのだ。母は1歳で福岡に帰ってきたので何も覚えていないが,祖母や伯父から思い出話を聞いて育ち,一度は上海に行き祖父母と暮らした家を見てみたいと言っていた。そこで親孝行と私自身の好奇心から5年ほど前,母を連れてその生地を訪ねた。
「ここが和ちゃんが通った小学校やろね」と,魯迅の故居の遺(のこ)るその辺りの通りを,母は記憶もないのに懐かしそうに歩いた。上海は再開発まっしぐらで未来都市のようなちょっと奇妙なデザインの超高層ノッポビルがニョキニョキ林立し,どこもかしこも建設ラッシュ。「魔都上海」という怪しげな魅力に惹かれていた私は肩透かしをくらったが,それでも,崩れそうな古い家屋の,開け放たれた二階の暗がりから浮かぶ下着姿の老婆の姿に,かつての上海の残り香を感じた。
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