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はじめに
「一応,もう1日様子をみよう」
「念のため,抗菌薬を入れておこう」
「私のやり方はこれ!」
根拠に基づいた医療(Evidence based Medicine:EBM)という言葉があたりまえになって久しいが,いまだにこんな経験はないであろうか。筆者がいた臨床現場では上記のような会話が日常茶飯事であった。筆者は悩んだ。本当に「一応」「念のため」「先人の経験」で決めてよいものなのだろうか? あいまいな根拠で治療をし続けていいのだろうか? きちんと結果をまとめ,エビデンスを示すことが,今まで診てきた患者への恩返しなのではないか? 筆者の研究の原点はここにある。
われわれが臨床現場で患者に向かう限り,常にさまざまなクリニカルクエスチョン(臨床上の疑問)が浮かんでくる。答えの出ているものもあるが,いまだ解決していないクリニカルクエスチョンは多い。その疑問を1つひとつ丁寧に解決していくことが臨床研究である。目の前の患者さんのケアが大切なことは言うまでもないが,臨床研究を行ない少しずつ医療レベルの改善に携わることも,われわれ医療従事者に課せられた使命なのではないかと筆者は思う。
この記事の読者なら同意していただけると思うが,クリニカルクエスチョンの解決に取り組もうとする熱心な医療従事者は多い。さまざまな医療分野で学会発表,研究会発表が活発に行なわれている。読者の皆さんも,実際に発表したことがあるだろうし,もっと発表をしたいと思っているであろう。
さて,現在抱いているクリニカルクエスチョンはどうやったら解決できるであろうか。
例えば,同じ兄弟なのに,兄は喘息で弟は全く健康な場合,その違いは何に由来するのであろうか? と疑問をもったとしよう。
解決には大きく分けて2つのアプローチ方法がある。1つは,動物実験などを行ない原因を検索する基礎医学的アプローチである。もう1つは,病歴(現病歴,既往歴,内服歴),診察所見,採血所見からわかることがあるかもしれないと考え,類似した患者のデータを収集し,喘息を引き起こすような要因を調べる方法だ。このような臨床的な情報からクリニカルクエスチョンを解決していく方法を臨床疫学と呼ぶ。臨床疫学に基づいた臨床研究は,臨床現場で働く医療従事者が自分のクリニカルクエスチョンを解決するのに有用なアプローチ方法である。
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