焦点 看護における実験研究
自然科学領域における実験研究の概要
鈴木 庄亮
1
1東京大学医学部保健学科保健管理学教室
pp.1-5
発行日 1970年1月15日
Published Date 1970/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681200162
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実験による研究
われわれがある事柄をもっと詳しく知りたいとき,われわれはそのことをよく知っていそうな人に聞くとか,それに関する先人の著述を読むとかするだろう。知りたい事柄の種類や程度によって,それで満足されることもあるが,その段階では目的を達しないことも多い。そのときわれわれに残された方法は,他の事柄と比較してみるとか,可能なら何回もくり返してみるとか,特殊な方法を使ってみるとか――すなわち,観察か,あるいは,一定の条件を人為的に作って考えを確かめるか――すなわち,実験か,の二つしかないであろう。実は,この観察と実験こそ,研究を支える2本柱といってよいものである。観察の生命は,その事柄が示すところのものを,目的に沿って,ありのままにみることにある。ただ,ここで問題なのは,観察者は,自分の心がそこにあるものしかみないということや,観察のレベルのものしかみえないということである。そういう限度が厳然としてありうるということを結論を出す前に十分心しなければならないだろう。洋行帰国談で同じ建物を観察してみな言うことが違うのはこの理由によるのだろうが,このことは,科学的観察においても全く当てはまるといってよい。事例報告や調査も観察の一種と考えてよい。観察に当たって精緻な技法や複雑な機器を用いることもできるが,予測をもたぬという点で,観察はあくまで観察なのである。
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