特集 看護研究におけるテキストマイニング(I)
扉
服部 兼敏
1
1神戸市看護大学
pp.460-461
発行日 2013年8月15日
Published Date 2013/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681100818
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医療という領域の中で,看護ほど自然言語を用いて活動を記述する領域はないだろう。自然言語とは,人間が日常のコミュニケーションで用いる,文化的背景とともに発展してきた言語体系である。しかし自然言語を用いて記述をすると,どれほど努力しても記述に曖昧さが残ってしまう。ヴィトゲンシュタインが喝破したように,曖昧さは自然言語の特質である。
なぜ分析にまで自然言語が使われ続けるのだろうか。看護で扱う対象は,複雑だ。狭義の医療での呼吸音は,周波数,波形といった生理学的指標で表しうるかもしれない。ところが看護における呼吸音は,音(聴覚),胸郭の動き(視覚,触覚),肌の色の微妙な変化(視覚,温度覚),口臭(嗅覚)からなる共感覚的なゲシュタルトである。だからベテラン看護師が語る臨床は,メタフォリカル(比喩的)にしか表象できないことも多い。臨床の看護師たちは,日々の習練を通じてこの言葉の術を身につけ,世代を越えて蓄積してきた。言語の曖昧さ,多義性は,現象の微妙な変化を語る豊かさでもある。
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