- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
- サイト内被引用
序
APA論文作成マニュアルとは
昨年,『Publication Manual of the American Psychological Association』の6th Edition(American Psychological Association[APA], 2010)が出版された。5th Editionの出版が2001年のことなので,まさに満を持して世に送り出されたと言ってもよいだろう。
筆者は,その5th Editionをベースに2004(平成16)年に初の邦訳版として医学書院から刊行された『APA論文作成マニュアル』,および6th Editionをベースに今年2011(平成23)年3月に刊行されたばかりの『APA論文作成マニュアル第2版』の両方の翻訳に携わった。
第2版では,電子出版の普及に伴う内容の拡充や,学術論文で報告すべき事項の標準化(Journal Article Reporting Standards ; JARS)などの新機軸が打ち出されている。JARSについては別の機会に譲るとして,本稿では,2つの翻訳に携わった立場から,『APA論文作成マニュアル』について知っておくとよい,いくつかの予備知識を概説し,特に引用に関して第2版で変更が加えられた点を解説する。なお混乱を避けるために,版を特定して説明を加える場合,本稿では原書の「5th Edition」「6th Edition」をそれぞれ「5th ed.」「6th ed.」と表記し,5th ed.をもとにした邦訳版『APA論文作成マニュアル』を「初版」,そして6th ed.をもとに今回出版された『APA論文作成マニュアル第2版』を,「第2版」と呼ぶことにする。
APAというと,いわゆる「APA方式」という文献の引用形式が想起されるが,引用に関する記述は,初版では総ページ数374ページ中64ページ(17%)であり,第2版でも304ページ中70ページ(23%)程度である。つまり,APA論文作成マニュアルは,文献の引用方法だけを解説しているわけではない。論文の構想段階から執筆,出版段階に至る論文作成に必要なことがらすべてがAPA論文作成マニュアルの守備範囲だということは,まず押さえておきたい事項である。APA論文作成マニュアルは,学術論文の内容をいかに正確かつ適切に読み手に伝えるかという方法論で一貫している。「正確」というのは字義通り,著者が伝えようとしたものを読者に間違いなく伝えることであり,「適切」というのは,学術論文にふさわしい表現や倫理的配慮に関する事項である。引用形式も含め,本書に記載されている書式や書き方は,それらを具現化するための方法論の1つだと捉えると理解しやすい。
Copyright © 2011, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.