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はじめに
▶東北大学大学院での保健師実習の概要について
地域の健康課題の複雑・多様化,保健師看護師統合カリキュラム移行後の新人保健師の実践力の低下などを背景に,より充実した保健師教育が求められるようになった1)。このため,東北大学大学院では2014(平成26)年4月に修士課程で保健師教育を行う保健師養成コースを開設し,「高度な公衆衛生看護実践能力とこれを担保できる実践的研究能力を兼ね備え,公衆衛生看護活動の基盤となる倫理的態度を持つ人材」の養成を目指している。
保健師養成コースでは,個別ケアマネジメント力を付けることを目的とした「公衆衛生看護学実習Ⅰ・Ⅱ」,地域ケアマネジメント力を付けることを目的とした「地域ケアステム看護学実習Ⅰ・Ⅱ」の計10単位の実習を行っている。約半年間にわたり,実習自治体1カ所につき1〜2名の学生を配置する。実習指導者は主に現場の立場から,教員は学術的な立場から学生を支援している。
これらの実習のうち「地域ケアシステム看護学実習Ⅱ」は,「地域で生活する人々の集団としての健康課題を明確化し,課題解決のための計画立案,実践,評価を学生が主体的に実施することを通して,保健師活動に必要な知識・技術・態度を習得する」ことを目的としている。本報告は,本稿執筆時に保健師養成コースに在席した筆者(佐藤)の「地域ケアシステム看護学実習Ⅱ」の展開過程を報告することで,保健師教育を大学院で行っている,または,検討している保健師学校養成所,自治体等の実習指導者の参考となることを目指した。
▶登米市A町域の概要
筆者(佐藤)が実習を行ったA町域がある宮城県登米市は,2005(平成17)年に9町が合併し誕生した市である。県北東部に位置し,西部は丘陵地帯,中央部は穀倉地帯,東北部は山間地帯で形成される。名産品のニラ,キャベツ,米をはじめとする農業と,登米牛の畜産業が盛んに行われている地域である。人口は約8万2000人と年々減少傾向にあり,年少人口は全体の11.9%と少なく,高齢化率は31.0%と全国・宮城県平均を大きく上回っている2)。
中でも実習を行ったA町域は,人口9064人と合併前の9つの旧町域の中で4番目に人口が多い。また,他町域では人口減少が見られる一方で,A町域では人口が横ばいで推移していること,年少人口や年少人口の占める割合ともに9町域の中で3番目に多いという特徴がある。
▶健康課題選定の背景
年少人口に該当する乳幼児・児童期の健康課題として,むし歯が挙げられる。歯・口腔の健康は摂食と構音を良好に保つために重要であり,生活の質の向上にも大きく寄与するとされ,健康日本21(第2次)でも「3歳児でう蝕がない者の割合が80%以上である都道府県の増加」が目標として設定されている3)。
登米市の2014年における3歳児でう蝕がない者の割合は71.3%であり4),3歳児のむし歯対策は重要である。A町域における3歳児のむし歯について,筆者(佐藤)は2017(平成29)年の乳幼児健診を通じ,家族形態や母親の育児への取り組み状況が関連しているのではないかという気付きを得た。
先行研究では,乳幼児のむし歯に関連する要因として,おやつの摂取頻度5-7),1日の歯磨き回数6),児の出生順位6,7),甘味飲料の摂取頻度8),授乳状況5,8),就寝前飲食の有無9)などが示されている。しかし,これらのうちA町域の3歳児のむし歯において何が課題かは明らかではなく,それを明らかにすることで,どの要因に重点を置いた取り組みが必要か検討できると考えた。
本実習では,①A町域の3歳児のむし歯経験の有無とむし歯経験本数の多寡に関連する生活習慣や母子の特性を明らかにすること,②その要因に基づいた支援計画を検討し,実施・評価することを目的に,量的・質的分析に取り組んだ。
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