教育のひろば
講義の中の笑い
阪本 一郎
1,2
1日本女子大学
2国立東京第二病院付属看護学院
pp.5
発行日 1966年12月1日
Published Date 1966/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663905733
- 有料閲覧
- 文献概要
私は講義の途中でときどき冗談口をたたいて学生を笑わせるように努めている。話題はいつも私自身の失敗談である。これが学生に私に対する親和感をもたらす手段だと,いつのまにか心得るようになっている。しかし,思えば,これは講義の邪道であって,学問に真剣にとり組もうとしている学生には,わずらわしいことであるかもしれない。
そう反省もするが,今日のような単位制の駒切れ授業では,学生との間の人間的な親和が結べない。今日の教育制度の重大な欠陥がここにあるよううに思う。学生にとって必要なことは,こま切れの知識を習得することよりも,いろいいな専門家に人間的に接触して,その中で自分の人間を造成していくことだ。1単位15時間の中で受け取れる知識は知れたもので,ほんとうに身に付く知識というものは,講義がおわったあと,それを基礎にして,こんどは自分で研究することから得られるのだ。だから講義は,知識の切り売りだけではなくて,それに人間的親和の訓練がふくめられなければならない。そのいちばん安直な方法が笑いだと思うのだ。
Copyright © 1966, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.