編集デスク・35
フランス留学生の帰国
長谷川 泉
pp.34
発行日 1964年3月1日
Published Date 1964/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663905261
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過日,ある学会でフランスから日本交学の研究に留学して来ている大学生に会う機会があった。彼は明春留学を終えてフランスに帰らなければならないと言っていた。日本語はかなり流暢に話す。外人特有のアクセントが加わるのはやむを得ないが,よく勉強したものだと思う。学会での研究発表を熱心に聞き,克明にノートをとっている。新宿でおこなわれていた近代日本文学館主催の文学史展の最終日に当たっていたのであるが,その方には足を向けないで,学会場の方にやって来たという学生である。
いろいろ話をしているうちに,日本の現実と考えあわせてぎくりとさせられることがあった。若い青年であるこのフランス大学生は,帰国するとすぐ兵営に入らなければならないのだと語っていた。もうゆうよされるぎりぎりまで延ばして来ているので,それ以上の延期は認められないのだという。ちょうど,来年パリに行くことになっている教授が,語学が不得意なので,この文学青年を頼りにしていたのだが,青年学生はどこの兵営に入ることになるかわからない,パリの近くか遠くかもわからない,しかしおいでになる頃はどこかの兵営に入っていることだけはまちがいない,と淡々と語っていた。
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