特集 精神科看護に求められること
『看護のための精神医学』をどう使うか―看護の実践と教育にとって特に重要と思われる箇所について
宮本 真巳
1
1東京医科歯科大学保健衛生学研究科
pp.362-363
発行日 2001年5月25日
Published Date 2001/5/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663902498
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実践に根ざす思索
中井先生の姿に初めて接してから,もう30年近くになる.私が,社会学徒から臨床家への鞍替えを考えて,日本における精神分析療法の草分けである土居健郎先生の主催する症例検討ゼミナールを聴講し始めた頃である.思えば中井先生も,法律学徒から基礎医学研究者へ,そして精神科医へと鞍替えした人だった.このゼミで中井先生が,ある思春期の症例について,アデノイド切除が去勢不安を喚起し発症の引金になったという指摘をされ,その推理の鮮やかさに驚かされたことがある.間髪を入れず土居先生から「中井シャーロック・ホームズの推理は相変わらず冴えてるね」と,からかい気味の突っ込みが入ったことも印象に残っている.今回その話を紹介したところ,中片先生から,「本人に説明せずに,いきなり切ったからですよ」と即座に補足説明が返ってきて,四半世紀の時を超えたタイムスリップの気分を味わった.
土居ゼミでは,中井先生が,自ら開発した風景構成法を精神療法的に使用し,精神分裂病者を回復に導いた経過を報告するのを何度か聞くことができた.それらの報告は,精神分裂病不治論が根強かった時代に,この病気が回復可能であることを信じさせ勇気を与えてくれるものだった.また同時に,精神分裂病者を回復に導くという大変な事業をなし遂げるには,明確なビジョンと方法論の確立が不可欠であることを痛感させられた.
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