連載 景色の手帳・1【新連載】
花も紅葉も
武田 花
pp.6-7
発行日 2000年1月25日
Published Date 2000/1/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663902187
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初夏の東北地方で。一面、新緑の鮮やかな緑色と桜のピンク色で埋め尽くされた低い山並みは、まるで和菓子屋の包装紙の日本画みたいだった。ほんわかした気分で山間の道を車で行くと、「あれま、あそこに林檎の花が。こっちにはしだれ桜。あらら、水仙や雪柳まで。なんだか知らないけど真っ赤な花まで咲いているよ」と、驚いた。他にも、山吹、見たこともないほど大きなタンポポ、つつじ、チューリップと、満開の花々があっちにもこっちにも咲き乱れているのである。植物園でも庭園でも花屋でもないのに。これだけの花をいっぺんに見せられて、現実ではないような妙な気分になった。
私の好きな映画監督、川島雄三が、「北国の春というのは、花々の狂い咲きだよ。いっせいに桜も梅も桃もだ。そして、ぱっと夏に変わる。実際、あれはどうなっているんでしょう」(『生き急ぎの記』藤本義一)といったそうだが、これのことだったのだ。
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