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短歌の鑑賞から看護教育へ―『短歌と人生』の執筆を通して
杉山 喜代子
pp.506-509
発行日 2012年6月25日
Published Date 2012/6/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663102105
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はじめに
私は,長い間看護教育に携わり,看護とその教育を探求し続けて5年前に退職をした。それまでとは異なる生活に最初は戸惑い,新たな生き方を思い巡らした。来し方を振り返ってはこれからを見据えようとする者に,詩歌が寄り添ってきた。もともと小説や詩歌の描く物語の美しさや真理に心を引かれ,看護を必要とする人の在りように添おうとする傍らに文学は常にあった。人の生が凝縮した境涯詠や人生詠,そして今を生きる喜びや悲しみを詠う短歌の世界へと引き込まれた。地元の短歌会に加入して作歌と月例の歌会を楽しむようになり,いつしか私は作歌よりも歌人の歌の鑑賞に興味が傾き,名歌に感動や共鳴,慰めを得ることが多くなった。
その感動や喜び,短歌の魅力を多くの人と分かちたく,昨年の秋,短歌鑑賞のエッセイ集『短歌と人生』を著した。短歌事始めから,短歌への誘い,一つの名歌を基にした人生の随想と亡き母を偲ぶ回想,そして生老病死を視点に短歌に詠まれた人生について書き綴った。自身の来し方を重ねた名歌鑑賞を通して,生きることの喜び,哀しみを綴った本書が,看護介護に携わる人たちの心に届くことを願っている。人の生老病死に直面する場に立つ方や立とうとしている学生たち,その教育に邁進する先生方に手にしていただきたい。
本稿では,短歌の一般的見解に続き,看護に携わった経験が短歌鑑賞に与える影響,短歌鑑賞が看護教育にもたらす効用について,本書執筆を通して感じていることを述べる。
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