連載 世界のフィールドから 健康づくりはボーダレス・11
地球上からのポリオ根絶を目指して—中国雲南省での経験から
中野 貴司
1
1国立療養所三重病院小児科
pp.512-515
発行日 2000年6月10日
Published Date 2000/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662902210
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天然痘の根絶達成とポリオ根絶計画
天然痘は天然痘ウイルスが感染して起こる病気で,発熱,発疹(膿疱)が主症状で死亡率は20%にもなるといわれます。この疾病の歴史は古く,エジプトカイロ博物館にあるラムセス五世のミイラには天然痘の膿疱痕があります。日本でも何人かの天皇や貴族たちがこの病にたおれ,その救いを求める気持ちが8世紀の奈良の大仏建立につながったともいわれます。世界中で周期的な大流行が何度かあり,多くの尊い命が奪われました。人類にとって恐るべき脅威であった“天然痘”,幸いこの疾病はすでに地球上には存在しません。アフリカ大陸東部,アフリカの角と呼ばれる地帯に位置するソマリアで1977年10月26日に発症した23歳の男性を最後に根絶が達成されたのです。
“ポリオ”はポリオウイルスが神経細胞を傷害して起こる病気です。中でも腰髄の脊髄前角細胞が侵されることが多く,下肢の麻痺する頻度がもっとも高いのですが,傷害部位によっては上肢,腹筋群の麻痺,呼吸麻痺などの球症状も来します。この“ポリオ”に対する根絶計画が現在進行中です。1988年,世界保健機構(WHO)ジュネーブ本部総会は,「2000年までの地球上からのポリオ根絶」という目標を設定しました。すでに南北アメリカ大陸においては1991年にペルーで発生した患者を最後にポリオは消滅しています。日本が属するWHO西太平洋地域でも,ポリオの根絶は間近なところまで来ています。
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