連載 保健所長のひとりごと
新人所長のひとりごと
渕上 哲
1
1滋賀県彦根保健所
pp.496-497
発行日 1992年6月10日
Published Date 1992/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662900513
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地域保健の入口にて
15年間,文字通り順風満帆に外科臨床の道を歩み,この間多くの良き先輩やスタッフにも恵まれ,一人前の外科医として十分な自信と誇りとそして然るべき余裕をもち,まさに心身ともに充実した日々の中で,良い意味においても悪い意味においても,これから先の人生のシナリオがかなりのところまで見通せるようになった,そういう我が人生の山道の4合目を歩いていた或る日のことである。眼下に琵琶湖が一望できる断崖に腰をおろし,新春の陽光に煌めく湖面に見惚れていた時,未だに答えの得られない1つの疑問が右の耳の穴から頭の中にとび込み,そしてその時,頬づえをついていた左手の指先がどういう訳か左の耳の穴をしっかりと塞ぎ続けていた。
“40にして惑わず”とは,今の仕事を惑うことなく続けることか,それとも,惑うことなき一生の仕事を見極め,これに改めて専念すべきなのか……。おそらく前者が正解であろうと思いつつも,後者にも一理あるのではと敢えて曲解し,何故なのかと訊ねる友人には“半分escape,半分challenge”という言い訳を残して,医師としての第2の人生を公衆衛生の道に求めた次第である。ただし,決してこの道こそがと見極めた訳ではなく,悩みぬいた訳でもなく,感覚的な,或る意味では“軽率な”選択であったのだが……。
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