特集 精神衛生
ルポルタージュ
ねじやか様を訪れる人々
所沢 綾子
1
1医学書院編集部
pp.71-75
発行日 1958年5月10日
Published Date 1958/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201644
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「占い」と云えばフランス映画の「外人部隊」に出て来るかの名優フランソワーズ・ローゼが演じた占いの老女を思い出す.トランプ占いの手がピタツと止つて老女の手に握られていたのは,スペードのエースであつた.その暗示するものは凶も凶「貴方は人を殺す」という知らせであつた.占なわれた男はそれから何時間とたたない中に人を殺してしまうのだつたが……あのシーンの背すじの寒くななるようなキン迫した空気を今も感ずる事が出来る.それから「カルメン」にも占いが出て来る.カルメンは自分自身を占うのだが,いつか殺される運命を予知し,やがてドン・ホセの手によつて殺されるのである.その他フランスの映画には,トランプ占いの場面がよく出て来る.すべてそれが伏線となつてストーリーを運んで行く.そして人力ではどうすることも出来ない運命の重さや人生の神秘を感じさせるのである.占いのさし示したものは,人を殺さなければならない運命であり,悪魔に魅いられた心であつた.ヨーロツパには根深い宗教の伝統があり,神がある.けれど神に見放された人々もいる.祈りを失つた人々の心の悲しさが,あの占いの中に出ているのではないだろうか.そしてヨーロツパのロマソチシズムがそれを悪魔の美しさとしてとらえたのではないだろうか.とすると占いは,神のいない人々のものであるのかもしれない.日本にも都会の巷にも農村の片隅にも,必ず占い師が住んでいる.
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