新刊紹介
「話しのしかた」と「すらんぐ」と
松本 一郎
pp.37-38
発行日 1957年8月10日
Published Date 1957/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201467
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私たちは独房に閉込められているわけでもないし,雲の御殿に住んでいるわけでもない.毎日,起きるから寝るまで,子供,老人,女,男,理クツ屋,黙り屋病人,酔払い……その他,その他と,挨拶をかわしたり,討論をしたり,こつちの意見を聞かせてやつたり,むこうの云い分を聞いてやつたり.シエークスピアではないが,私たちの生活は,明け暮れ「言葉,言葉,言葉」である.言葉という紐帯をもつて社会につながっている.
なかには勿論,言葉を意識しないでも済むような職業の人もある.が,保健婦という仕事は,そうはいかない.まず,話しかける事から,そして,聞いてあげる事から,である.そうした意味で,せんだつて,この「保健婦雑誌」が「上手な話し方」の特集をしたのは,大へん有意義であつた.言葉はお金とちがつて,いくら使つても減らないし,損にならないので,まるで防衛庁がみさかいもなく役にも立たないアメリカの廃品ヒコーキに金をつぎこむみたいに,私たちはとかく,無駄で,効果のない言葉を浪費しがちである.そんなことをしていたら,そのムクイは必ずやつてくるだろう.現に自衛隊のヒコーキは,ぶつ壊れて死人を出しているのだ.またシエークスピアをひきあいにだして恐縮だが,「一言しやベリ出したら,あと,百言しやべらないと自分でも何を云つたのか,訳が判らない」というのでは困る.
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