講座
冬と子供
斉藤 文雄
1
1聖ロカ国際病院小児科
pp.59-64
発行日 1957年2月10日
Published Date 1957/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201355
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1.冬の季節と子供
何ということもないようであるのに,大人は季節に対してより好みをする.冬は嫌いだ,夏は暑くてと,自らの心の中に枠をつくつて一歩も出まいとする.こういう抵抗は果してその人にとつては幸福であろうか.そうは思わない.観念的に頭の中できらいな季節を作りあげて,ひたすらその中で3〜4か月の間,もがき苦しむことは自らの心や身体をしばりあげて却つて苦しい思いをつのらせるだけである.
その点子供はまことに素直なものである.どういう季節が訪れて来ようと全面的に受け容れて,抵抗するどころか,却つてその季節の中に同化してゆく傾向さえ見える.この点人間以外の植物でも冬眠する動物でもみんな季節に従順であるようだ.何故こんなことを書き出したかというと,大人のひとりよがりな嫌いな季節というものが,ややもすれば家庭内の子供たちにそのままおしつけられる傾きがあるからである.今は冬だから冬を例にとつてみても,寒い冷たいということが世の中に存在することがひとつの罪悪ででもあるかのように嫌う人があるが,そういう家庭では子供までがいつの間にか寒さ嫌いになつてしまつている.何というわけもない,ただ周囲がそうだから子供も嫌いになるだけのことである.
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