特別記事
Y看護婦への手紙—カンボジアと日本の医療をつなぐ点と線(後編)
柳原 和子
pp.482-487
発行日 1988年5月1日
Published Date 1988/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661921989
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共生の思想を求めて
あなたが数年後,私のカンボジア難民の報告写真会場に姿を現わした時には驚き,そして嬉しかった.あなたも忘れずにいたのだな,と.あの頃,私もカンボジア難民との出会い,生まれてしまったかかわりの重さを持て余しながら日々を送っていました.そして私の脳裏を離れなかったのは自分と異なる状況を生きる人々といかにして共に生きていくのか,という疑問です.それは,この地球上に争いがなくならない限り,飢えと死に瀕した難民は生まれ続けるわけですが,その人々と,繁栄の中で育った私たちとが等身大にかかわっていくにはどうすればよいのか,という煩悶でもあります.
あらゆる争いを否定して生き続けるためには,誰とも,自分といかに異なっていようと,その人々と共に生きなければならない.それにはまず,自分の内部に巣喰っている[私にとって当然と思い込んでいること][正しさ][好き嫌いの感情]との闘いが要求されます.私を正しいと信じるとすればそれと異なる正しさを生きる他者との衝突は免れません.しかも私たち戦後生まれの世代は[自己形成]を教育の基本として育てられてきました.他者を認めながら自分を生きる—共生を支えるものは何か?いや果たしてそんなことが私たちにできるのか?
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