連載 西村かおるの訪問看護留学記—英国編・9
レディーファースト
pp.928-931
発行日 1987年9月1日
Published Date 1987/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661921815
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スランプの突破口は「男と女」
留学ももうかれこれ1年になろうとし,このシリーズも8回目となったところで,ついに私はネタ切れという状況に陥った.一時期はカルチャーショックによるアイデンティティ・クライシスなどという人並に華麗な時期もあったのに,一部で「ゾンビ」のかおると呼ばれる新陳代謝と順応性のおそるべき早さはここでも発揮され,この国にすっかり慣れてしまったのだ.そうなると何を書くべきなのかもわからなくなる.そして時はただいたずらに流れ,必殺編集人のH氏は日本であせる.原稿が遅れるという結果だけいえばいつものことになってしまうのだが,書くべき内容が見つからないという今回のスランプは今までの遅滞理由とは明らかに違う.が同居のチャイニーズたちはそんな私の内的葛藤をも知らず,怠け者とあざける.そのくせ彼らもレポートをためこんでクラスをさぼって間に合わせ,私の美しい罵りの言葉を浴びるのだ.
その悩める私に,日本から休暇で私を訪ねてくれた大先輩のN女史が「男と女について書きなさいよ.人生はそれよ,それ.それっきゃないわよっ」などと過激な発言をする.彼女は私が実に久しぶりにしゃべる日本語が,私にとってどんなに刺激の大きいことか気づいてない.余談だが,私が彼女をヒースロー空港に迎えに行った時,日本語がモタモタと出てこず驚いた.2日後,実習に行ったら,今度は英語が同じことになっていた.私って,やっぱアナログ人間ナンダワ.
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