山が教えてくれている

　最近になってやっと周囲の山の名前が言えるようになった．赴任当初，方向オンチの私は，眺める場所が少し変わるたびに，同じ山の名を幾度も人にたずねたりして笑われたものであった．

　とにかく今住んでいる所は，どちらを向いても山ばかりである．ここに赴任する前には，宿舎の窓から新宿の高層ビルの灯を毎日眺めて暮らしてきた私には，初めのうちは文字通り山の中に来たような気がして心細かった．その上，人一倍寒さに弱いときているので，ちょうど春の初めだというのに，次にやってくる冬が気になっていた．