特別掲載
最近の医事紛争と看護業務
松倉 豊治
1
1大阪大学・法医学
pp.38-46
発行日 1970年3月1日
Published Date 1970/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661914800
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はじめに
『医療事故のなかには,事故自体すでにそれが医療過誤に属することの明らかなものもあるが,一方また,事故であるには違いないが,これを法律上の過誤として処理し得ないものも少なくない。単に法律技術上そうであるというだけでなく,実際に事故の原因が医学的に明らかでないものもしばしばあるし,あるいはむしろ,医学的には疾患そのものの経過として当然に,もしくは患者に内在する素因のために不可抗力的に,または環境の変化による疾病の刻々の変化のために不測に,一見事故の外観を持ちつつ,実ははなはだ不幸な,しかし予見し得ない医学的現象として,思わざる方向に経過するものがあるからである…。
医療事故のすべてが医療過誤ではたいし,医療過誤のすべてが医事紛争になるわけでなく,医事紛争がすべて医事裁判に進展するわけでもない。理論的にはともかく,社会現象の実態としてそうである。これは,医療が元来,かつての長い歴史の示すごとく,医師と患者との信頼を基礎とした人間関係のうえにその美しさを維持してきたからである。しかしこの関係は,社会の一角において,今や危く押し潰され,あるいは無視されんとしつつある。法律家の目には,いわゆる医事紛争や医療過誤と称するものが実は未だ法律以前の問題として映ずるものがあるであろうし,医師にとっても,問題の争点が医学以前のものであると感ぜられる場合が少なくない。
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