今月の考察 新生児管理
日本の赤ちゃんの“人権確立”はまだ遠い
石川 照太郎
1
1保健同人社編集部
pp.77-80
発行日 1968年12月1日
Published Date 1968/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661914241
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世論におされて
「生後1週間以内の赤ちゃんは,あらゆる点で人間扱いをされていない。預り料は1日50円で,駅の手荷物なみ。死亡率が外国より低下しているという厚生省統計はマユツバだ」と,昨年7月5日,日本産婦人科学会,日本看護協会など12団体で結成している新生児管理改善促進連合(会長・森山豊 元東大教授)会は,衆参両院婦人議員懇談会(両院の婦人議員全員が超党派で組織したもの)に対して,「新生児を人間なみに扱え」と強く訴えた。
当時,赤ちゃんの取りかえ事件が続発していた。相次ぐ不祥事も,やがて起きた滋賀県の大津赤十字病院の赤ちゃん取りかえ事件でその極に達した。この事件は,看護婦が赤ちゃんを入浴に連れ出したときに起きたのだが,入れかわった両方の赤ちゃん(体格もかなりちがっていた)の体重などの記録を看護婦が訂正して記入し,つじつまを合わせていたことがわかったのである。しかし,県の厚生部は,管理者の監督に欠陥はあったが,違法行為はないと結論した。というのは,新生児の取り扱いについては,生後1週間以内の正常出産児の場合,患者としては取り扱われず,法律上からは,カルテの記入や診療についての義務づけは規定されていないのだ。むろん新生児に対する看護婦の人員基準もなかった。したがって,低い給与の上に,人手不足からテンテコ舞いの重労働を強いられている看護婦は,事件の渦中にはいるが,むしろ被害者のうちだという声もあった。
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