麻酔の知識・7
酸素療法
沼田 克雄
1
1専売公社東京病院麻酔科
pp.62-63
発行日 1968年10月1日
Published Date 1968/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661914158
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酸素と炭酸ガス
空気中の酸素は,肺→血液→組織と移動し,炭酸ガスはこれと逆の経路を辿って,組織から空気中へ排出される。これは,水が高い所から低い所へ流れるのに似ていて,分圧の高い所から低い所へと,拡散現象によって移動するのである。このことおよび,これらのガスの生理学的な働らき方からいって,体内のガスの過不足を云々する時は,その分圧で表わすのが便利である。空気中には酸素が20%ほどあるから,1気圧の下では,その分圧は,だいたい760mmHg×0.2で,約150mmHgである。これが肺に吸い込まれ,肺胞で身体各組織から集まった静脈血(ここの酸素分圧は約40mmHg)と接すると,酸素の移動がおこって,肺胞気と血液の酸素分圧はほぼ等しくなる。その値は約80〜100mmHgである。(図1)
さて,人工呼吸と酸素療法(吸入気の酸素分圧を高めて酸素の拡散率,血液中溶解量,ヘモグロビンとの結合度増加をはかること)について考えて見よう。人工呼吸はいうまでもなく,機械的に換気を促がすことによって,酸素の供給と炭酸ガスの排出をはかるものである。救急蘇生法としての人工呼吸が,まず酸素を与えるためであることには異論はない。しかし,本来,人工呼吸とは人工換気のことであって,“換気”の生理学的な意味は,酸素の供給よりもむしろ炭酸ガス排出の方にある。
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