社会病理と精神衛生・10
競輪
高木 隆郎
1
1京都大学医学部精神科
pp.80-83
発行日 1964年6月1日
Published Date 1964/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912282
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1.公営競技・国営賭博
南仏のニースから地中海に沿って絶景を楽しみながら30分もドライブすると,モナコの首都・モンテカルロにはいる。旅券も要らない観光だけの国である。ここには国営賭博で有名なカジノという競技場がある。そこは,亜帯熱の植物につつまれたロータリーの奥,小さな博物館でも想わせるような,すこしく古風で,まじめくさった風格のある建物である。はいり口のところには,直接コインを入れて遊べるパチンコ式のゲームが何台か並んでいる。そこから中は木戸銭をとられ,カメラや持物など一切あずけさせられて,シャンデリアと絨毯の厳かなホールへと導かれる。ホールには,玉突きの台のようなものが10個ほど置かれてあり,その台を客がとりまき,その上でルーレットが回ったり,サイが投げられたいしているのだが,客はいたって静粛で,一種緊張した殺気と遊蕩のけだるさとをとりまぜた不思議な空気が満場をつつんでいる。そのルーレットをまわしたり,台の上の賭札を例の歯なしの熊手のようなものでかき集めたりしているのは,みんな濃紺のダブルの背広のユニホームをイキに着こなした“国家公務員”である。モンテ・カルロという首府だけみたいな小さな独立国モナコは,天然の景観とこのカジノに集る世界の観光客を餌にホテルやら土産物屋やら記念切手の発行といった副次的な産業が栄え外国人からごっそり金を落とさせようという不思議な繁栄の国なのである。
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