医学講座
妊婦と薬剤—“サリドマイド・ベビー禍をめぐって”
保刈 成男
1
1日本大学
pp.36-40
発行日 1962年12月1日
Published Date 1962/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661911798
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
文明禍ということばがある。交通事故もそのひとつだし,薬物中毒もこのなかまにはいる。後者のうち,世界中の耳目を集めたものに例の「サリドマイド・ベビー」禍がある,妊娠中の女性にとくに効きめがあるといわれたサリドマイド系睡眠薬のために,手足のない,あるいはアザラシのヒレのような手足をもった子どもが,ぞくぞく生まれたという事件である。両独では約6,000人,英国では約1,000人がいわゆるアザラシッ子として生まれ,うち約3/2が生きのこっている。西独では,政府がサリドマイド・ベビーに義手義足をつける訓練をはじめたというし,英国では労働党が妊娠中絶の合法化を政府に要請したり,ベルギーではわが子の将来を思いあまって殺した若い夫婦と医師が投獄さたるという騒ぎである。米国ではこの災禍を未然にくいとめたというわけで,政府の医官で薬理学者のケルセイ女史は,官吏としての最高勲章を大統領から手渡されている。
紙上をにぎわしたこれらの事件の立役者,サリドマイド(N・フタリル・グルタミン酸イミド)は,1958年に西独のグリウネンタール社でつくられ“世紀の睡眠薬”というキャッチフレーズで,毎晩100万の人々に愛用されたといわれる。
Copyright © 1962, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.