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私の見た看護婦さん
小林 照代
pp.18-19
発行日 1962年12月1日
Published Date 1962/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661911793
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大した痛みや吐き気も覚えず,虫垂炎だと診断され,私が,最寄りの公立病院へ入院したのは,夏もいよいよ本格的になろうとする,7月の下旬に近い日でした。私の職場である保育園では,七夕のお遊戯会も終わってほっと一息,夏休みを目前に控えた絶好の時期であったため,入院ちゅう,精神的負担が軽く,私にとっては,不幸中の幸いでした。病院で指示された必要品をかかえて,病院へ馳けつけました。病室は,北向きの3人部屋で,風の通らない窓からは,夏の青葉がさんさんと輝いて目にしみたのを思い出します。「盲腸なんか,病気のうちにはいらない」日ごろ言われてはいるものの,いざ手術となると緊張してしまって,手術までの小時間,ベットに寝ころがったり,起きてみたり,落ち着きのないままむだに過ごしてしまいました。
局部的な腰の痛みで,重苦しい一夜があけました。病院生活7か月でもうほとんど回復に近い右隣りのKさんが,額に汗を光らせながら,パタパタと部屋のお掃除を始めました。私たち2人(左隣りのTさんは50少し過ぎでした。私より1日早く同じ盲腸の手術をしたのですが,化膿していたので,しばらく起き上がれないとのことでした)の洗顔,細々した身の回りの世話は,その日から,Kさんの日課のひとつになってしまったようです。看護婦さんの中には,「これでもお礼の一言も言わない人がいるのよ。あたり前くらいに思っているのかしらね」とこぼすのです。
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