とびら
ことば
金子 光
1
1東京大学
pp.1
発行日 1962年12月1日
Published Date 1962/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661911790
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もう5,6年前のことでありますが,WHOの看護専門委員会がオランダのハーグで開催されたのに出席したついでに,西欧諸国を訪問する機会を与えられました。映画や写真で,また人々の話でいろいろきかされてはいたものの,自分の眼で見,耳できき,体で経験するのははじめてで,非常に興味があり好機を感謝したしだいでした。
ハーグの会議で集まった12か国の人たちの英語が,聞きとり難いものも少しはありましたが,皆達者で感心していたのですが,会議を終え,ロンドンを訪ね,さらに西独,ジュネーブ,北欧を歩き回りました。ところが,スイスが国際観光国であり,首都ジュネーブはその中心地ですから,各国語が往交活歩していることは,道をゆく人種の多いことでも想像に難くはありませんでしたが,全くもってその通りでした。フランスと接触している地区,ジュネーブを含めてここはフランス語,ドイツにつづいている地方はドイツ語といった具合で,四方9国のことばを使いわけていましたのには,さすがにその名に恥じない意味で感心しました。トナカイとソリで有名な原始林におおわれたような北欧の諸国はどうかといいますと,スエーデンのストックホルムで,保健局の病院課長に逢いにゆきましたところ,まず,最初に言ったことが何と—“私はこれから何語でお話ししましょうか,フランス語,ドイツ語,英語?いずれにしましょうか”というのです。
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