扉
うつりかわり
pp.1
発行日 1960年6月15日
Published Date 1960/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661911104
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卒業してからもう何年になるかしら? と考え考え久しぶりになつかしい女学校の玄関にたつた。あのころの,木造3階建の,白ペンキ塗りの古風な洋館の学校の面影はどこへいつてしまつたのだろう……。鉄筋コンクリート5階建の,堂々とした校舎になつている。大きなガラストビラが5つもならぶ広い玄関,校風を語る思い出のユグノリアと白木蓮,それに大きなコブシの木など,どこへ移し植えてあるのだろう……。流れるように出て来る女生徒達は,みんな紺のセーラー服の胸のリボン通しにJGといれてある制服を着て,小鳥のようにたのし気にさえずつている。私達の時代には制服もなかつた。
そんなことを思つてぼんやりしていると肩をたたかれてびつくり,思わずふり返つてみると,そこには,あの頃の担任のM先生のニコヤカな笑顔が,「おまちしていましたよ,さあどうぞ,」と,迎えて下さつていた。ああやつぱり,ここは私の昔の学校だつた。先生について皆の集つているホールにはいつていつた。ここは,昔,チヤペルとよばれていて,朝毎に全校生徒が集つて始業の前に礼拝をまもつた部屋である。あのころ,高い天井に近いところに,真紅のステンドグラスがいれてあつて,朝陽がそれを通して斜めにチヤペル一杯にひろがり,何となく神秘的な雰囲気をかもし出していたのだつたが,今のこのチヤペルは,中学と高校の約1,2〜300名位の生徒をいれる大ホールで,中2階つき,正面のプラットフオームの奥の高い窓にステンドグラスがはまつている。
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