講座
日射病・熱射病
高橋 晄正
1
1東大物療内科
pp.55-57
発行日 1958年9月15日
Published Date 1958/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910693
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起り方
強い直射日光の下で長い講話を聞かされたり,長時間にわたる労働をさせられたり,陽があたらなくても暑くて湿気の多い部屋の中で作業しなければならないような時に,急に気分が悪くなつてきたら本症を考えなければならない。前のような場合を日射病(Sun stroke)といい,後のような場合を熱射病(Heat stroke)といつて区別した時代もあつたが,現在では臨床経験からみても動物実験からみても,あるいはその発生病理という点からみても,両者を区別しなければならない理由は認められていない。その本態は,発汗機転の障碍のために惹き起された放熱障碍によつて,体温の著しい上昇が起り,主として中枢神経系が破壊されることによると考えられている。事実本症の発生過程をみていると,まず発汗が次第に少くなり,数時にわたる放熱の停止状態が先行することが知られている。発汗障碍の本態も,中極性というよりも,長時間の発汗のために起つた汗腺自体の疲労に基づく局所性のものであるという見解が優勢である。
しかしながら,私たちが常識的に日射病あるいは熱射病という言葉の下に理解しているのは,このような真の意味での熱ウツ積を本態とするものではなく,同じような高温高湿環境下で発生し易い,末梢循環麻痺を本態とするもので,医学的には熱疲労(Heat exhaustion)と称せられているものである。
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