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国立箱根療養所見学の記
乾 三保子
1
1神奈川県立准看護学院
pp.62-63
発行日 1957年3月15日
Published Date 1957/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910307
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こゝ箱根療養所は,患者120名を収容する国立の療養所である。全国では196個所の国立療養所があるうち,脊髄損傷の患者の療養所は,たゞ此処だけとのことである。昭和9年頃から再度の遍歴を経て,昭和20年12月1日に,新たに国立箱根療養所として発足したのである。
脊髄損傷といえば,人体のもつとも中心となる支柱の損傷であるから,その療養生活も永続的となり,そのベツトの上の生活が,その人の人生となるのである。したがつて,この療養所全体を流れる雰囲気は,ひとつの小社会的機運と,それを形成する家庭がかもし出すところの生活のにおいがある。その生活のにおいは,ひとつは,肉体的不完全者を中心とする闘病精神と,その生活を支える経済的なものとである。故にこの機関は,医療所とも社会福祉施設ともならねばならないのである。そしてその闘病生活は,肉体的には“寝ている者は起こし,起きた者は立たせ,立つたものは歩かせろ”という方針のもとに積極的に,その廢物となりかねない肉体を,鞭韃しつゝ訓練を重ねているのである。そしてさらに,精神的な懊悩との戦いも,絶望的な谷間から少しずつでも生活の喜びを探究していこうとする気持が,患者自身の心の練磨と医療従事者との心の交流により,養われていくと,案内の看護婦さんは,説明してくださつた。
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