発行日 1951年2月15日
Published Date 1951/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906802
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だいぶ古いことですが,イギリスの「タイムズ」という一流薪聞の文藝附録に「乞食から國王までという本の紹介がのつていました。著者は10才を越した1人の看護婦でした。20年餘の看護婦としての經驗と彼女の優秀な資格は,ロンドン市立病院の1人の看護婦である彼女を,人生のいろいろの場面に立ちあわせることになりました。行路病者として運びこまれた乞食の臨終に立ちあつた彼女はその優れた資格によってイギリス國王の病床にも侍しました。乞食であろうと國王であろうと,人間の病氣とその苦惱,治癒と死の過程は,ひとしく人類の通る道です。しかし,病氣そのものは1つでも,それをとりまく人生の道具だては,同じロンドンの室の下で,乞食と國王とでは何たるちがいでしよう。「乞食から國王まで」の著者は,社會のどん底から,てっぺんまでを看護婦として通ってみて,人間と病氣とその病氣とが,人生の何を語るかということを書いた本でした。
丁度日本が中國への戰爭を擴大していたころで,間もなくわたしはその新聞さえよむことができなくなりました。したがつて,その本も輸入されませんでしたが,ロンドンの1人の看護婦のかいた「乞食から國王まで」という本の名とその内容は,忘られないで,記憶にとゞまつています。
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