隨筆
黒の看護衣
高山 坦三
1
1北海道帝大醫學部
pp.31-35
発行日 1947年1月15日
Published Date 1947/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906169
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看護婦は元來,歴史發生的にはキリスト教の尼僧である。中世紀のいはゆる闇黒時代は,思想的にも,經濟的にも,また國家・社會的にも闇黒時代であつた。戰爭,饑餓,貧困,疾病,負傷はその時代の最も象徴的な姿であつた。この見棄てられた患者たらを救はうとして教會の重い扉がひらかれた。カトリツク修道尼僧たちの數珠をまさぐつてゐた白い手は,やがて瘠せおとろへた病人たちのからだをかゝへ,血に汚れた繃帶を交換するやうになつた。これがそもそもの看護婦のはじまりであり,また病院制度の濫觴である。看護婦も病院も,であるから,看護の手のない貧しいひとびとのために最初はつくちれたものであつたのである。キリスト教的博愛の思想からそれらは生まれたものなのである。尼僧たちが患者の家族のかはりになつて,その看護したのがはじまりであつたのである。
このやうに看護婦は,元來,醫師に附隨して發生したものではなく,まつたく宗教的獻身の精神,博愛,慈悲の精神より生まれた聖なる仕事であつたのである。この事實は,いまでもなほ看護婦たちは,キリスト教の尼僧たちとおなじく,SchwesterもしくはSisterと呼ばれる事實によつて裏書きせられてゐる。
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