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抗がん剤は,がん治療に使用される制がん作用を持つ薬剤である.しかし,抗がん剤は,がん患者に制がん作用を期待できる反面,抗がん剤を取り扱う医療者を含む人体に,望ましくない影響を与える可能性を持つ薬剤である.具体的な抗がん剤曝露による人体への影響としては,接触による急性反応や慢性反応としての発がん性,催奇形性,染色体異常1)が報告されている.また,医療者以外でも,がん患者の外来,在宅における化学療法が増加しつつある現在,患者の家族や介護者も抗がん剤あるいはその代謝物を含む排泄物に触れる可能性があり,健康上のリスクを受ける可能性が大きくなってきている.したがって,抗がん剤を取り扱う際の危険性を認識することが以前にもまして重要になってくると思われるが,いまだ一般的な医療の現場や在宅での安全性に対する配慮が十分なされているとはいいがたい状況である.
医療現場での抗がん剤取り扱いの現況と問題点
当施設はこの2-3年の間,外来でがん化学療法を受ける患者の数が急速に増加したため,その状況に追いつけずに適切な設備や治療態勢等が整わないまま,外来でのがん化学療法が行なわれているという状況が否めない.たとえば,抗がん剤の調製場所は患者のいる処置室であったり,空調が不十分ななかで外来診療と並行して医師が抗がん剤調製する場合もあり,曝露に対する防御が十分であるとはいえない状況である.この状況は,2003(平成15)年度に予定されている外来通院がん化学療法センターの稼動により大幅に改善すると思われるが,多くの施設では今後も同様の状況がみられると考えられる.そこで,抗がん剤取り扱いの問題点を検討する目的で,以下に当院での現在の状況を簡単にまとめてみる.
・非経口的抗がん剤の調製は医師が行なう.抗がん剤の調整時,素手で行なわれることも多く,抗がん剤曝露に対する防御のための衣類(ガウン,マスク,ゴーグル等)は装着されていない.
・抗がん剤調整場所は,患者に近い処置台(最短では1 m以下の距離)で行なわれ,クリーンベンチなどは常備されていない.
・抗がん剤は搬送業務専任者が薬剤部より紙袋に入れ現場まで搬送.落下などの衝撃で簡単に破損する可能性のあるガラス製アンプル剤(たとえば5FU)の搬送も同様である.
・患者が治療を受ける間に休養するためのベッドやリクライニングチェアは,複数名で連続して使用され,その間リネン等の交換は行なわれない.
以上のように,抗がん剤投与時に抗がん剤曝露の対策が十分になされているとはいいがたく,必ずしも確立されたガイドラインに沿った防止対策がとられているとはいえない現状であるのは明らかである.しかし,このような現状は,とくに当院に限ったものでないと思われる.わが国では抗がん剤の取り扱いについては個々の医療施設の裁量に委ねられており2),抗がん剤曝露の危険性についての医療者の認識が薄いこと自体が大きな問題3)であると考えられる.
そこで,筆者は,抗がん剤を取り扱う者の1人として,またがん化学療法看護認定看護師として,まず重要なことは,現場の医師,看護師に抗がん剤を取り扱うときの危険性を認識する教育であると考えた.しかし,「抗がん剤曝露の人体への危険性を啓蒙する」といっても,具体的な知識の不足のために,現場の医療者の意識を高め,抗がん剤曝露から自己を防御するという行動の変化にはまったくつながらなかった.
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