特集 ゆらぐ「家族」
ゆらぐ「家族」
舩橋 惠子
1
1桜美林大学国際学部・社会学
pp.9-15
発行日 1995年1月25日
Published Date 1995/1/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611903351
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はじめに
今までに何度も「家族の危機」が叫ばれ,家族の意味が問い直されてきました。ちょっと新聞を広げると,寝たきりの老女が介護者の嫁に殺されてしまった事件や,親に暴力をふるう若者たち,娘を強姦する父,幼児を虐待する母,憎しみあう夫婦など,目を覆いたくなるような記事が絶えません。そして,それらは特別に変わった家族の特殊な出来事とは限らず,どこにでもありそうな普通の家庭で起こったことのようです。実際に事件を起こすには至らないが,「他人事とは思えない」という人がたくさんいます。普通の平凡な家族の生活の中にも,それほど極端ではないにしても似たりよったりの小さな軋みがあるのでしょう。家族は常に暖かい愛に満ちているとは限りません。家族の間の憎しみや冷淡,勝手な利用や放棄といった悲しい現実から,目を背けることはできないでしょう。
しかし,他方で感動的な「家族愛」に励まされる話もまた数多くあります。大江健三郎さんの長男で「知的障害者」とされる作曲家・大江光さんを支える父母や弟さんたちの家族愛は,テレビで繰り返し放送されたドキュメンタリー番組を通じて,多くの人の心を動かしました。また,1993年10月に文部省統計数理研究所が行なった第91回国民性調査の結果によれば,「一番大切なもの」は「家族」とする人の割合が,1970年代から他の項目を抜いてトップに上がり,今日では42%に至っています。
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