特別記事 阪神大地震体験記
2.文明の恩恵を失ったが,多くの大切なものを得た
松本 有香子
1
1神戸海星病院産婦人科病棟
pp.318-322
発行日 1995年4月25日
Published Date 1995/4/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611901227
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
甘い認識
その時,私は病院に隣接する寮の自室で熟睡しきっていた。1月17日の勤務は午後1時からの予定で早起きする必要もなく,当日の午前2時をまわってから蒲団にもぐり込んでいたのだ。起きる時間にはまだまだ遠い,午前5時46分。
寝つきが良くて寝起きは悪い,自称「お蒲団大好き人間」の私をも,その地震は目覚めさせた。文字通り「揺り起こされた」感覚である。ベッドの上に座ってはみたものの,寝ぼけた頭で何が起こっているのかわからないまま,私は揺れがおさまるまでただだ然としているしかなかった。どこからともなく聞こえてくる不気味な地鳴りが耳のなかで反響している。「地震だ」とやっと我に返り手探りで机の上のラジオのスイッチを押してみるが,電源が入らず。とっさに開けたカーテンの向こうの暗闇は,辺り一帯が停電していることを物語っていた。
Copyright © 1995, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.